大晦日、北海道の天塩研究林にある山小屋に集まった学者や記者、その仲間たちと、山小屋に襲い掛かるギンコと呼ばれるヒグマとの闘いを描いた動物パニックものの小説です。
山小屋の周囲は厚い雪に閉ざされており、まさに陸の孤島です。 仲間たちが一人二人と生きたままヒグマにバリバリと喰われていき、緊迫感と絶望感に支配される状況のなか、主人公の薫とその娘の美々はヒグマの襲撃を逃れ、無事に生還できるのか。息をも付かせぬ展開が続きます。
この小説を読んで、北海道の広大な自然や厳しい冬、ヒグマの恐ろしさについての認識がガラッと変わりました。フィクションなので多少の誇張が含まれているとは思いますが、その点を考慮したとしてもです。
また、自然保護のために機動隊にぶつかって行ったり、シマフクロウを守るために殺人や自殺までする研究者の学問にかける思いが描かれているのも印象的です。
目次
ヒグマの圧倒的な戦闘力
作中ではヒグマが持つ圧倒的な戦闘力についてかなり詳しく書かれています。
日本で見かける熊といえばヒグマの他にツキノワグマがいますが、 ツキノワグマは体重60~70kgと人間の成人男性とほぼ同じなのに対し、ヒグマは400~450kgです。圧倒的な体格差があります。
作中に出てくるギンコも身長280m、体重350kg以上です。人間の皮膚を簡単に切り裂く15cmの鋭い爪と石のように硬い肉球を持ち、5トンのマイクロバスを持ち上げる筋力を持ちます。
時速80kmで走り、木登りもうまい。耐久力も桁違いで、散弾銃で撃たれても死なないほどです。さすがに頭は人間の方が賢い、と思いたいところですが、足跡を追ってきた猟師を罠にはめて返り討ちにするなど、高度な攻撃法を使うほど賢いのだそうです。
ここでちょっと気になるのが、他の肉食獣、ライオンやトラと比べてどちらが強いのかという点です。これについては、ライオンとヒグマのピットファイトの記録があるそうです。それによると、ファイトの結果はヒグマの17戦全勝なのだそうです。
他にも、飛びかかってきたトラをヒグマが無造作に叩いたら、トラの首がちぎれてしまったとか、5匹の豹を20秒で叩き殺したヒグマがいるとか、トンデモない記録が残っているそうです。
そんな巨大な化け物が襲い掛かってくるのです。想像しただけでもゾッとしますね。
そして、ヒグマには
- 狙った獲物を執拗に追い続け、捕らえるまで絶対に諦めない
- 味をしめると満腹していても繰り返し襲う
- 人間の味を覚えると、その後も人間を狙うようになる
- 背中を見せて逃げるものを本能的に追いかける
などといった独特の習性があります。つまり一度ターゲットにされたら最後、殺すしかないということになります。
主人公たちの一行も最初は小屋に立てこもりつつ安全を確保しようとしますが、ヒグマの執拗な襲撃を度々受け、防戦一方では勝ち目はないと悟り、反撃することを決意します。
北海道の大自然と過酷な冬
この小説の魅力として他に挙げられるのが、雄大な北海道の大自然が描かれている点です。
小説の舞台となる天塩研究林は、南北25km、 東西10kmもの面積を持つ、国内最大の大森林地帯です。周囲の林を含めると、森全体の広さは神奈川県よりも広いそうです。
寒さも過酷で、冬の気温はマイナス40度にもなります。当然、ストーブは24時間つけっぱなしで、寝ている間に火が落ちるようなことがあれば凍死は免れない。夜は車のヘッドライトが役に立たないくらいの深い闇に覆われると書かれています。
そんな都会に住んでいる人間には想像できない大自然の描写は、この小説の面白さをいっそう引き立てるのに一役買っています。